福岡高等裁判所那覇支部 昭和48年(う)153号 判決 1974年4月22日
主文
本件各控訴を棄却する。
被告人両名につき、当審における未決勾留日数中一五〇日をそれぞれ原判決の刑に算入する。
理由
本件各控訴の趣意は、弁護人上地実作成名義の各控訴趣意書および被告人タンプキンス作成名義の控訴趣意書にそれぞれ記載してあるとおりであるから、いずれもこれを引用し、これに対して当裁判所は、つぎのとおり判断する。
一被告人両名についての弁護人の控訴趣意中訴訟手続の法令違反の主張について。
所論は、原審弁護人は、原審第一回公判廷において、原審裁判所を構成する与那嶺裁判官の忌避の申立をしたが、その理由とするところは、同裁判官は、被告人両名に対し、勾留状を発付しており、とくに被告人マクレランに対しては勾留理由の開示もしているので、同裁判官は被告人両名につき不公平な裁判をする虞れがあるというものであつたところ、同日右申立を却下する決定があつたため、原審は直ちに審理を続行したが、忌避の申立を却下する決定に対しては即時抗告が許され、したがつて即時抗告の提起期間内は審理を停止しなければならないのであるから、原審の訴訟手続には判決に影響を及ぼすべき法令違反があるというものである。
よつて、原審記録を精査して審案するに、原審裁判官与那嶺為守が被告人両名に対し、本件公訴事実によりそれぞれ勾留状を発付したこと、同裁判官が被告人マクレランについて勾留理由開示の手続をしたこと、原審第一回公判において、原審弁護人上地実は、被告事件に対する陳述に先立ち、原審裁判所を構成する与那嶺裁判官の忌避を申立てたこと、その理由は、同裁判官は、被告人両名に対し勾留状を発布しており、被告人マクレランに対しては勾留理由開示の手続をもしていて捜査記録に目を通しているから、被告人両名が犯行を否認している本件においては、同裁判官は不公平な裁判をする虞れがあるというものであつたこと、原審は、右申立について同日、与那嶺裁判官を除く三名の裁判官で構成する合議体による右忌避申立却下決定をし、これを公判廷で告知したうえ、審理を続行し証拠調を行なつたことが明らかである。右事実によれば、本件忌避申立に対する決定手続は刑訴法二三条に従つてなされたものであるから、原審は、刑訴規則一一条により忌避の申立と同時に訴訟手続を停止しなければならなかつたわけである。そして、刑訴法二五条によれば、忌避の申立を却下する決定に対しては即時抗告をすることができるとされ、同法四二五条によつて、即時抗告の提起期間内は、裁判の執行は停止されることになるから、忌避申立却下決定があつても即時抗告の提起期間内は、刑訴規則一一条の規定に従い訴訟手続を停止しなければならないものであるところ、刑訴法四二二条は即時抗告の提起期間は三日と規定しているから、忌避申立却下決定のあつた日に訴訟手続を進めることは許されないものというべきであり、したがつて、原審が審理を続行したことは違法であり、原審の訴訟手続に違法のあることは所論のとおりである。しかしながら、忌避申立を受けた裁判官が忌避申立についての裁判が確定前に審理に関与したとしても、その後忌避申立が理由がないとする裁判が確定したときは、忌避申立を受けた裁判官が関与した訴訟手続は有効になるものと解するのが相当であるところ、原審記録によれば、忌避申立を却下する旨の告知を受けたときから所定の期間内に即時抗告の申立がされた形跡がないことが明らかであるから、本件忌避申立を却下する裁判は確定しており、したがつて所論の原審訴訟手続は有効になつたものというべきである。また、記録によれば、忌避申立を却下する旨の決定を告知し、訴訟手続を進めるに際し、被告人および弁護人は、何ら異議を申立てていないし、とくに、原審第二回公判において原審弁護人は「忌避申立却下決定後の訴訟手続については、別に異議はない。」と述べているのであるから、右訴訟手続を論難することは許されないものというべきである。論旨は理由がない。<以下省略>
(屋宜正一 大城光代 堀籠幸男)